誕生日
日向はコイビトの部屋のソファーにうずもれるように座り込み、不機嫌な顔をしていた。
今日は12月29日、コイビト様の誕生日である。
日向のコイビトは、7歳年上美人で、職業は医者。ここまで聞くと誰もが羨むだろうが、実は男だったりする。名前は若島津健。不思議なことに男に初恋しちゃったことにはショックを受けていない日向少年(それは、小次・健だから当然のなりゆきです)。みんなに大きな声で言えない恋愛だけれども、人前でいちゃいちゃできない恋愛だけれども、日向はこの恋に満足していた。
なのに。
それなのに、自分も嬉しいはずの12月29日に日向は不満たらたらの表情だった。
ピンポーン
日向は『またか』と玄関を睨みつけた。今日何度目か数え切れないほどの宅配屋が鳴らす
『ピンポン』に日向は不機嫌の針がまた右に傾いた。普段から目つきの悪い日向だが、今日の目つきは一段と鋭い。小動物なら殺しかねないほどの迫力だ。
「なに恐いカオしてんだよ」
宅配屋からいくつかの荷物を受け取った若島津は後ろから日向の頭を軽くはたいた。
「だってさあ・・・」
はたかれた頭に手をやりながらそう言うと、日向は部屋の隅に積み上げられているプレゼントの山を顎で指し示し忌々しげに吐き捨てた。
「一体いくつプレゼントがくるんだよ。」
病院の同僚・看護師はもちろん、患者のはてまでからプレゼントが届いている。ほんとにどうやって若島津の誕生日を知ったのか教えてほしいものだ。学校からも女生徒・女教師・そして男からも多数あるのは何故なんだ?
「これくらいのプレゼントの量で日向に文句言われたくないね。お前のときは、ダンボール10箱以上あったじゃないか。」
それを言われると、日向は何もいえない。
俺の場合はほとんどが憧れで送ってくるだけで、サッカーをしている日向小次郎、へのプレゼントだ。
でもセンセイの場合は違う。若島津健そのものが、みんな好きなんだよな。
自分のコイビトなのに公言できないのは、こんなときちょっとツライ。
少々へこんだ日向に機嫌を良くした若島津は
「でも日向がここに居てくれるのが、俺には一番のプレゼントだよ。」
と頬に口付けた。
「今日はせっかく俺の誕生日なのに、いつまでそんなカオしてんの?」
いまだに不機嫌そうな表情の日向にあきれたように声をかける。
日向は若島津の声に仕方ないな、と重い腰をあげて隣に立った。
本当はさっきの口付けで不機嫌なんてどこへやら、ってカンジだったが、口付け一つで上機嫌になるのがちょっと悔しくて不満そうなカオをしてただけなのだ。
ほっぺたのキスひとつで機嫌直っちまうなんて、情けねー。
でも・・・し、幸せかも(すみません、腐ってます)。
センセイと一緒に誕生日を祝いたい人がこのプレゼントの数以上はいるのに、俺と二人だけで祝えるなんて。うん、やっぱり幸せだ。
あんたね、その若さで幸せ悟っちゃってんじゃないよ、とつっこみを入れたいところだが、日向は更なる幸せを求めて行動をおこしておりました。
若島津の腰に手を回し、軽く引き寄せると遠慮がちに口付けた。薄く片目をあけてみると若島津はうっとりと瞳を閉じ、背中に腕を巻きつけてくる。怒るかな?と思いつつも更に深く重ねると優しく応えてくれた。
誕生日だから?なんだか今日のセンセイは機嫌がいいようだ。
身体が熱く火照るほど唇を確かめた後、若島津はキレイなカオで「ところで日向は何をくれんの?」と甘えるように尋ねた。
「プレゼントはもちろん俺の手料理フルコース。って言っても難しい料理なんて出来ないから、センセイの好きな料理をたくさん作ったんだ。で、余った分はこの容器に入れて冷凍しとけば、食べたいときにいつでもチンして食べれるし(主婦だね、日向くん)。」
「へえ、何なに?」
日向の料理の虜になりつつある若島津は彼の肩に腕を回し、背中越しにメモを覗き込んだ。角ばった字で書かれたメニューを嬉しそうに見ている。どれもこれも若島津の気に入りの料理で、一度日向の味を知ってしまったら、他では食べようと思えない。それだけ日向の腕がいいのか、相性がいいのか?
最後まで読み終えた若島津は満足そうににっこりと笑った。
「じゃあ、後片付けが終わってからメインディッシュにしよう。」
メイン?メインディッシュってどれだろう?焼き魚?八宝菜?ハンバーグ?
眉間にしわをよせながら考え込む年下の彼氏に思わず笑みがこぼれる。
いつまでも首をかしげている日向の耳元に、若島津は甘くささやいた。
「今夜のメインディッシュは日向なんだろ?」
みるみるうちに真っ赤になる男がかわいくて声を立てて笑ってしまう。
自分より少し背が高くて、背中が広くて、熱いこの男が愛しい。
あ〜あ。こんなにコイツにはまるなんて思わなかったな。
今まで何度も12月29日を迎えたけど、こんなにこころ暖まる誕生日は初めてかもしれない。
来年も再来年もそのずっと先までも。
いつまでもこの幸せが続きますように。
とりあえずは目の前のこの幸せを。
いとしいこの男と分かち合いたい。
さて、おいしく食べられたのはどちらだったのでしょう?